厚労省が女性活躍推進法を改正へ:派遣会社が今すぐ見直すべき3つの対応策
2025.10.27
2025年度から、「女性活躍推進法」に基づく指針が改正されます。
厚生労働省が示した改正案には、「生理・更年期など女性特有の健康課題を踏まえた支援の強化」が明記され、
企業に対して休暇制度の整備、柔軟な働き方の導入、相談体制の構築などが求められます。
一見すると大企業向けのテーマのように思われがちですが、
実は「派遣業界」にとっても非常に大きな意味を持つ改正です。
派遣社員の約7割が女性であることを考えれば、
今回の法改正は“現場の働き方”に直結する話題だと言えます。
この記事では、社会保険労務士の視点から、
改正のポイントと、派遣会社が今すぐ取り組むべき3つの対応策について詳しく解説します。
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## 1. 改正の背景:女性の健康課題が「企業課題」に
女性の働き方をめぐる環境は、ここ数年で大きく変化しています。
政府が進める「女性活躍推進」や「多様な働き方」などの政策により、
出産・育児後もキャリアを継続する女性が増えました。
しかし一方で、**生理痛・PMS・更年期障害などの健康課題によって仕事を続けにくくなるケース**も多く、
これまでは“個人の問題”として扱われてきたのが現実です。
厚労省によると、女性の健康課題による経済損失は、年間約3兆4,000億円。
これは、生産性の低下・欠勤・離職などによる損失を含めた試算です。
この数字は、企業経営の観点からも無視できない規模です。
今回の改正案では、こうした健康上の課題を
「企業が配慮すべき労働環境の一部」として明確化。
女性が安心して働ける仕組みづくりを進めることが、企業の社会的責任として位置づけられました。
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## 2. 改正の主なポイント
改正案で示された具体的な取組みは、大きく3つに整理できます。
### ① 多様な休暇制度の整備
生理や更年期症状、体調不良による通院や休養など、
従来は有給休暇に頼るしかなかった部分に、企業独自の休暇制度を導入することが求められます。
たとえば以下のような制度が検討対象となります。
- 生理休暇や体調休養日を時間単位で取得できる仕組み
- 医療機関受診や治療のための通院休暇
- 突発的な不調に対応できる「特別有給休暇」
こうした制度を設けることで、社員が無理をせず働ける環境を整えることができます。
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### ② 柔軟な働き方の導入
健康状態やライフステージに合わせて働けるよう、
次のような柔軟な勤務制度の導入が推奨されます。
- 時差出勤(ラッシュを避けて通勤)
- 短時間勤務制度
- テレワーク(在宅勤務)
- 所定外労働(残業)の制限
特に更年期世代では、体調の波が日によって大きく変わるケースもあり、
「一律の勤務時間」ではかえって生産性が落ちることもあります。
柔軟な勤務体系は、結果的に企業全体のパフォーマンス向上にもつながります。
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### ③ 相談体制と職場理解の促進
制度を整えるだけでは十分ではありません。
社員が「安心して相談できる環境」を整えることが不可欠です。
改正案では、次のような取組みを求めています。
- 産業医やカウンセラーの配置
- オンライン相談窓口の整備
- 職場内研修による理解促進
- 女性同士が気軽に話し合える交流の場づくり
体調の悩みを上司に直接伝えることが難しいケースも多いため、
「第三者に相談できるルート」を確保することが重要です。
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## 3. 派遣業界にとっての影響と課題
派遣会社にとって、この改正は“人材定着”に直結するテーマです。
派遣スタッフの多くが女性であり、健康上の理由で働き続けられなくなるケースは少なくありません。
よくある現場の課題として、次のような声が聞かれます。
- 「体調不良でも休みにくい雰囲気がある」
- 「派遣先の上司に相談しづらい」
- 「派遣元に相談しても、対応に時間がかかる」
このような課題を放置すれば、派遣スタッフの離職率が上がるのは当然です。
逆に言えば、健康支援の仕組みを整えることで、スタッフの信頼と定着率を高めるチャンスでもあります。
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## 4. 派遣会社が今すぐ取り組むべき3つの対応策
ここからは、派遣会社が実際に取るべき具体的な行動を3つのステップで整理します。
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### 対応策① 派遣元・派遣先の連携強化
健康課題への配慮は、派遣元だけで完結するものではありません。
実際に働く現場(派遣先)の理解と協力が欠かせません。
たとえば、次のような仕組みづくりが有効です。
- 派遣先への「健康配慮指針」の共有
- スタッフからの相談を受けた際の対応ルールを明確化
- 派遣先担当者への研修(体調配慮・勤務調整など)
「派遣元と派遣先が同じ目線で支援する」ことができれば、
スタッフにとっても安心感が生まれます。
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### 対応策② 休暇・勤務制度の整備
就業規則に「健康支援休暇」や「通院休暇」などを設けるほか、
時間単位で取得できる柔軟な休暇制度を導入する企業も増えています。
また、派遣スタッフの場合は「勤務シフトの柔軟性」も重要です。
体調不良時には、在宅業務への切り替えや時間短縮勤務など、
派遣先と調整できる仕組みを整えておくと良いでしょう。
社労士として実務的に見ても、こうした制度整備は難しくありません。
小規模な会社でも、運用の工夫で十分に対応可能です。
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### 対応策③ 相談体制の構築と社内文化の醸成
制度やルールを整えても、「使いにくい」「言い出しにくい」環境では意味がありません。
そのためには、「相談しやすい文化」を社内に根付かせることが大切です。
たとえば次のような工夫が考えられます。
- 担当者による定期的なフォロー面談
- オンラインでの匿名相談フォームの設置
- 女性社員によるサポートチームの設置
- 男性社員も含めた啓発研修の実施
「お互いを思いやる文化」をつくることが、制度運用のカギになります。
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## 5. 「女性だけの支援」ではない
改正案には、「女性だけでなく、労働者全体を対象とした取組みも有効」との記述があります。
つまり、女性支援をきっかけに、**誰もが働きやすい職場環境づくり**を進めることが理想です。
男性にも更年期や体調の波はありますし、
介護やメンタルヘルスの問題など、サポートが必要な場面は誰にでも起こり得ます。
「健康に働くための配慮」を組織文化として広げることが、
結果的に企業全体の生産性とエンゲージメントを高めることにつながります。
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## 6. 行動計画への反映と企業の義務
女性活躍推進法では、従業員301人以上の企業に対して、
「行動計画の策定・公表」が義務付けられています。
今回の指針改正を受けて、今後はその行動計画の中に「健康支援の取組み」を明記する必要が出てきます。
派遣会社においても、計画更新の際には次のような観点を盛り込むことが望ましいでしょう。
- 女性の健康課題に関する現状把握(アンケート・面談など)
- 健康支援のための制度導入と目標設定
- 定期的な効果測定と職場意識の変化の確認
「計画倒れ」で終わらせないためには、
小さくても“実際にできる行動”を積み重ねることが大切です。
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## 7. 社労士の視点:制度設計と運用の両輪が重要
社会保険労務士として感じるのは、
このテーマは「制度設計」と「現場運用」の両輪があって初めて機能するという点です。
就業規則や休暇制度の条文を整えるだけでは不十分で、
実際に社員が安心して使えるように、現場と経営の間をつなぐ調整が必要です。
たとえば、
- 派遣スタッフが休暇を申請したときの連絡ルート
- 派遣先への情報共有の範囲と配慮
- 有給との整合性や給与処理のルール化
など、細部まで運用ルールを詰めておくことで、トラブルを防げます。
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## 8. まとめ:女性が安心して働ける企業こそ、選ばれる
今回の法改正は、単なる法令対応ではなく、
「企業がどんな価値観で働く人を支えるのか」という姿勢を問うものです。
派遣スタッフを含め、誰もが体調やライフステージに左右されずに働ける環境をつくること。
それが今後の人材確保・企業成長の鍵になるでしょう。
健康支援の取組みは、“コスト”ではなく“投資”です。
定着率の向上、生産性の維持、企業イメージの向上──
そのすべてが中長期的な経営基盤の強化につながります。
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👩💼 **社会保険労務士としての一言**
女性社員・派遣スタッフの健康課題は、
個人の努力では解決できない「職場の構造的課題」です。
就業規則の改定、行動計画の策定、健康支援制度の設計など、
法令を踏まえた現実的な対応策を一緒に考えていきましょう。
“誰もが安心して働ける職場づくり”は、派遣会社のブランドそのものです。
2025年の法改正を追い風に、現場から変化を起こしていきましょう。
当ホームページのお問合せ・相談フォームから、お気軽にお声がけください。
初回のご相談は無料です。
【参照記事】
https://www.rosei.jp/readers/article/89783
【参照リンク】
厚生労働省「働く女性の健康推進に取組みましょう」
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セミナー開催実績例
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「元ハローワーク職員が教える!求人助成金セミナー」 - 飲食店様向け「元ハローワーク職員が教える!求人助成金セミナー」
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講演実績
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研修のご依頼例
- 就業規則を変更したので、わかりやすい説明会を開いてほしい
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- 従業員向けの、接客マナー、敬語などのレッスン会をしてほしい
執筆のご依頼
雑誌・メルマガ、HPコラムなど、ご希望に沿ったテーマで記事を執筆いたします。
掲載履歴
HP記事執筆
ハッケン!リクナビ派遣に「働き改革!派遣社員が選べるふたつの雇用とは」と題する記事を執筆しました。
「近代中小企業」2月号
「近代中小企業」2月号に記事を執筆しました。
「元ハローワーク職員が教える!ハローワーク求人&助成金活用法」
「SR」 9月号
ハローワークを始め、社会保険事務所(現:年金事務所)、労働基準監督署でも勤務経験を持ち、「お役所の裏事情に詳しい社労士」として定評のある我がみなとみらい人事コンサルティング代表。
ハローワークでの勤務経験を買われ、日本法令様出版の「SR 9月号」に記事を執筆しました。
(第27号 2012年8月6日発売)


